イタリア人の情熱×日本人の探究心
プロジェクトの始まりは2012年に遡ります。
イタリア・リミニの丘にある、サン・パトリニャーノ。ワイン評論家や専門誌から高い評価を得ているワイナリーであり、イタリア全土から元薬物中毒の若者たちが集まり「尊厳」と「希望」を取り戻すための更生施設としても知られています。醸造を担当するのは、イタリア醸造協会会長でもあるリカルド・コタレッラ氏、サン・パトリニャーノの意義とヴィジョンに深く共感した醸造家です。同氏と私たちが食事を共にするなかでの、何気ない会話がきっかけとなりました。
日本産ワインの話、農業が衰退しつつある日本の現状、私たちが抱く未来への展望。私たちが発する言葉に耳を傾けていたコタレッラ氏が口を開きました。「年齢を考えても私に残された時間は少ない。私は心を衝き動かされた。日本でのワインの醸造を手伝わせてくれないか。世界に誇れるワインをきっと造ってみせる」。私たちの想いに共感した氏のこの言葉によりプロジェクトは大きく前へと動き出しました。
まず、コタレッラ氏が選んだブドウは日本固有の品種「甲州」でした。日本の気候や土壌、様々な条件や食材との相性を踏まえたうえで、このブドウに秘められた大きな可能性を直感的に見いだしたのです。そしてこのプロジェクトにおいて何よりも重要だったのが、氏と私たちの想いを実現することのできる醸造施設を探すことでした。何社もの施設を訪れ、大正2年の創業以来、独自性を追求し進化し続け世界水準の国産ワイン、世界が認める「ジャパンオリジナルの開発」に挑戦し続ける大和葡萄酒の萩原社長に協力をお願いすることになりました。コタレッラ氏の愛弟子であるニコラ・タンティーニ氏も醸造に加わり、日本とイタリアの醸造方法論の違いに戸惑いながらも、イタリア人の情熱と日本人の探究心によって、新しいタイプの甲州ワインKOSHU “First Bottle”が2014年リリースされました。
記念すべき1本目のボトルは、タイ王室へと届けられました。私たちとサン・パトリニャーノの出会い、そのきっかけとなったのが、タイ王室が発足させた麻薬撲滅プロジェクトだったからです。ドイトン開発プロジェクトと呼ばれるこの試みでは、貧しい農民が生活の糧を得るためにやむなく続けてきたケシ栽培から、代替作物としてコーヒーやナッツに切り替えることを促し、彼らの自立により、負の連鎖を断つことに成功しています。
ドイトンからサン・パトリニャーノ、そして日本へ。未来への想いに共感して繋がった縁は途切れることなく世界中を巡っています。そして今、北海道余市郡余市町で新たなプロジェクトが動き始めています。